透析のお仕事、転職先について
■透析の仕事って?
看護師さんのお仕事の中でも「透析」というと、「どんなことをするのかよくわからなくて不安」「透析患者の看護経験がなくて心配」といったお話をお聞きします。たしかに透析は専門性の高い分野ですが、その分、透析看護のスペシャリストを目指すことも可能な分野です。(看護協会認定の「透析看護認定看護師」、学会認定の「透析療法指導看護師」「透析技術認定士」といった資格も取得可能です。)。
また、透析は看護の中でも特別な領域ですので、透析未経験の方が透析クリニック等に入職した場合には、丁寧に教育をしてもらえますし、透析経験を有する方は即戦力として歓迎されることも多いようです。
【病院の透析室】
透析導入期の患者様から重症の患者様の透析まで経験できます。
勤務時間は8~18時ころまでのお仕事が多く、病棟のように即時入院がないため、定時でお仕事が終わることが多いようです。もっとも、最近は透析を3クールまで増やす病院も増えていますので、2クールでの定時終了を希望する場合には、転職前に確認したほうがよいと思います。
【透析クリニック】
透析クリニックでは、患者様は維持透析の方が、また、予約制を採っているところがほとんどですので、残業はほとんどないようです(早番・遅番制を採用しているクリニックもあります)。
■透析看護認定看護師・透析療法指導看護師の資格取得を考えている方向けの転職先は?
透析看護認定看護師の資格を取得するためには、教育機関での研修が必須となりますが、教育機関への出願条件の一つに「透析導入期・長期維持透析・CAPD・ハイリスク患者の看護の中から5例以上を担当していること」というものがあります。
また、透析療法指導看護師の受験資格を満たすためには、「透析看護領域(血液透析・腹膜透析)実践報告を3例提出すること」が必要です。
このため、これら出願条件を満たすための症例数の確保や、資格取得期間中の給与支援を考えると、病院の透析室のほうが支援を受けやすく、また、多様な事例を経験する機会も多いのではないかと思います。
透析に関する基礎知識
1.腎臓の機能低下と透析の必要性
(1) 腎臓の機能
腎臓にはいくつか役割がありますが、このうち、最も重要な役割は、血液を濾過し血液中の老廃物、余分な水分、電解質・酸を尿という形で体外に排出することです。
(2) 腎機能の低下に伴う問題
ところが、高血圧、糖尿病などが原因(※)となって腎臓の機能が低下してしまうと、血液中の老廃物等を体外に排出する機能も低下することから、むくみや貧血、骨の量・質の低下といった問題が発生します(慢性腎不全)。そして、さらに腎機能が低下してその機能が健常者の10%以下になってしまう状態を末期腎不全といい、この状態になってしまうと腎機能を代行するための治療法である透析又は腎移植が必要となります。
※ 透析を導入した患者の原疾患の第1位は糖尿病性腎症(43.5%)、第2位は慢性糸球体腎炎(21.2%)、第3位は腎硬化症(11.6%)となっています。
(2010年12月末現在の統計値 出典:図説わが国の慢性透析療法の現況 Ⅰ-3)-(2)導入患者の原疾患と平均年齢)
(3) 慢性腎不全
慢性腎不全に陥ると、腎臓は元の正常な状態にまで回復することはなく、末期腎不全にまで進行することがほとんどです。しかしながら、適切な治療を施すことによって、末期腎不全に至る時期、即ち透析・移植が必要となる時期を遅らせることができることがあります。
(4) 末期腎不全とその治療手段
末期腎不全に至ってしまった場合には、その後の腎機能の回復は望めません。このため、末期腎不全患者は、腎臓の主な役割である血液中の老廃物等を体外に排出するという機能を失うこととなります。老廃物等の体外への排出がなされないと、尿毒症や高カリウム血症、心不全などの重大症状を引き起こし命に関わることになりますので、末期腎不全患者は透析や腎移植をしなければなりません。
末期腎不全に陥ってしまった場合には、透析療法又は腎移植を行わなければなりませんが、このうち、人工的に血液中の余分な水・電解質・老廃物を除去し浄化する働きを代行する方法が透析療法です。もっとも、透析療法は腎機能を回復させるものではなく、腎臓の一部機能を代行しているに過ぎません。そのため、末期腎不全になってしまったら腎移植を行わない限り、透析療法を生涯継続しなければならないのです。
2.透析療法
透析療法には、血液透析と腹膜透析の2種類があります。
血液透析とは、血液を体外循環させて透析器を通して尿毒素を除去するもので、腹膜透析は、自分の腹膜を用いて尿毒素を除去する方法です。
なお、日本透析医学会の統計資料によれば、我が国の透析患者29万7千人の96.7%が血液透析を受けており、腹膜透析の割合は3.3%に過ぎません。
(2010年12月末現在の統計値 出典:図説わが国の慢性透析療法の現況 Ⅰ-2)-(5)慢性透析治療の形態)
(1) 血液透析(HemoDialysis:HD)
<準備:シャントの作製>
血液透析では血液を体外循環させることから、大量の血液を体外に出す必要があります(1分間に200ml)。そこで、血液透析を開始する準備として、透析のための血液の出入り口を作る必要があります。この血液の出入り口を一般にバスキュラーアクセスといい、その代表的なものがシャントです。シャントは、手首近くの腕の動脈と静脈を手術でつなぎ合わせることで作ります。シャントを作ることにより静脈に多くの血液が流れることになるため、大量の血液を体外に導出することが可能となるのです。
<方法>
血液透析は、バスキュラーアクセス(シャント)に針を刺し、ポンプを使って血液を体外に導出させ、ダイアライザと呼ばれる透析器に血液を循環させて尿毒素等を取り除いた後、血液を体内に戻します。
血液透析は、1回につき3~5時間程度かけて行われ、通常は週に2~3回行う必要があります。
<機能>
血液透析が行われることにより、血液から老廃物・カリウム・リン・尿として排出されるべき水分が除去され、透析液からはカルシウムやアルカリなどが補われます。これにより、本来の腎臓の機能のかなりの部分を血液透析で代行することができます。
<血液透析特有の合併症>
血液透析導入時には、10日間程度入院することがあります。これは、血液透析導入期に不均衡症候群とよばれる症状が出やすいためです。不均衡症候群とは、透析中から透析終了後12時間以内に起こる頭痛・吐き気・嘔吐等のことをいいます。これは、尿毒素が除去されにくい脳と透析によって尿毒素が除去された血液との間に濃度差が生じ、濃度の高い脳が周囲から水分を吸い取ることで脳がはれることが原因であるとされています。
(2) 血液透析濾過(HemoDialysis Filtration:HDF)
<機能>
小分子の尿毒症物質を拡散(濃度差による物質の移動(高濃度→低濃度))により効率よく取り除く透析と、高分子の尿毒症物質まで取り除ける濾過を組み合わせた血液浄化療法です。
老廃物と水分を除去する原理は血液透析(HD)と同様ですが、血液透析濾過は、血液と透析液の圧力差を大きくして多くの水分を抜くことで、より多くの老廃物を除去します。水分を多く抜いてしまうため、血液中の水分が減りすぎ脱水になってしまうので、水分を置換液として補液します。この点が血液透析とは異なります。
<利点>
血液透析濾過は、血液透析よりも中分子料の除去効率が高いため、透析アミロイド症の原因物質であるβ2ミクログロブリンの除去効率も高くなります。このため、透析アミロイド症の症状が改善されます。
また、HDFでは、透析中に血圧が下がりにくくなるといわれ、さらに、全身のかゆみやいらいら感の改善に効果があるようです。
<問題点>
オンラインHDFでは、血液透析とは比較にならないほどの大量の透析液が血液に入りますので、透析液の清浄度を厳重管理しなければなりません。このため、血液透析に比べ、コストが高く準備に時間がかかります。
<診療報酬>
血液透析濾過については、血液透析によって対処できない透析アミロイド症などの患者を対象として実施した場合に限って算定することができます。したがって、全ての透析患者が保険の範囲内で血液透析濾過を受けられるわけではありません。
(3) 腹膜透析(Peritoneal Dialysis:PD)
<準備:カテーテルの埋め込み>
腹膜透析は、腹腔内に直接透析液を注入し、一定時間貯留している間に腹膜を介して血液浄化を行う透析方法です。
腹膜透析を行うには、透析液の出し入れをするためのカテーテルを腹腔内に埋め込む必要がありますので、カテーテル挿入手術を行わなければなりません。手術後、カテーテルが身体になじんだら透析が開始されます。
<方法>
腹膜透析では、一回の透析につき2000mlの透析液を腹腔内に注入します。すると、腹腔内に透析液が入っている間に、腹膜の血管を通じて過剰な水分や老廃物等が透析液側に滲み出していき血液が浄化されていきます。そして、血液が浄化されるのに必要な一定時間が経過したら、透析液の廃液を行います。なお、透析液の注入には7~10分、廃液には10~15分程度かかります。
<種類>
腹膜透析には、CAPD(Continuous Ambulatory Peritoneal Dialysis:連続携行式腹膜透析)と、APD(Automated Peritoneal Dialysis:自動腹膜透析)の2種類の方法があります。
CAPDは、「透析液の注入 → 一定時間の経過 → 廃液」というサイクルを1日に3~5回行うもので、APDは、装置が自動的に夜間3~5回の透析液の出し入れを行い、寝ている間だけで透析を完結させるものです。
<利点と問題点>
腹膜透析は、血液透析に比べ、残存腎機能をより長く維持でき、また、通院回数も月に2回程度ですから、通院による時間的拘束も少なく済みます。さらには、脳卒中や狭心症の発症が少ないという報告もあるようです。
しかし、腹膜透析では、腹膜が毎日透析液にさらされるため、時間の経過とともに腹膜が劣化してしまい、被膿性腹膜硬化症(下記「<合併症>」を参照。)という腹膜透析特有の合併症が起こりやすくなっていきます。被膿性腹膜硬化症は、腹膜透析を長期間継続するとその発症率及び重篤度も上昇するという傾向がみられることから、腹膜劣化の進行具合や腹膜劣化に対する治療の負担を総合考量し、腹膜劣化が著しい場合には、腹膜透析と血液透析の併用もしくは血液透析への移行さらには腎移植を考えなければなりません。
<腹膜透析特有の合併症>
腹膜透析特有の合併症の一つが上述の被膿性腹膜硬化症(EPS:Encapsulating Peritoneal Sclerosis)です。
被膿性腹膜硬化症を発症すると、嘔吐・腹痛・下痢・便秘・低栄養・微熱・血性腹水・腹部塊状物触知などの症状があらわれます。
被膿性腹膜硬化症の発症は、腹膜透析期間に比例するといわれています。これは、長期間の腹膜透析により腹膜が劣化してしまうことが発症の主要因であると考えられているためです。一般的には8年以内に腹膜透析を中止することが予防策になるといわれていますが、腹膜透析開始から8年以内であれば腹膜への影響が少ないというわけではなく、8年以内であっても腹膜劣化が著しい場合には発症防止のために腹膜透析を中止すべきことになります。
この他、腹膜透析特有の合併症としては、腹膜炎があります。これは、バッグ交換時における操作の過程で病原菌が腹腔内に入ってしまうことが原因で起こります。腹膜炎を繰り返すと、腹膜の機能が低下するだけでなく、上述の被膿性腹膜硬化症の一要因となってしまうといわれています。
<血液透析・腹膜透析に共通する合併症>
・腎性貧血
腎臓は、造血ホルモンであるエリスロポエチンの生成やビタミンDの活性化などの内分泌機能も担っていますが、これら内分泌機能を血液透析・腹膜透析で代行することまではできません。このため、慢性腎不全になってしまうと、エリスロポエチンが十分に生成されず、これが原因となって貧血に陥ってしまいます。これが腎性貧血といわれるもので、慢性腎不全患者のほとんどが腎性貧血に陥るといわれています。
・透析アミロイド症(透析アミロイドーシス)
また、透析によっても十分な除去が困難な物質があり、その一つがβ2ミクログロブリンというタンパク質で、これは透析アミロイド症と呼ばれる合併症の原因となる物質です。透析アミロイド症は、βミクログロブリンから形成されるアミロイドが、全身の骨・関節・内臓に沈着することによって起こるもので、小指を除く指のしびれや痛みが出たり(手根管症候群)、指が滑らかに伸びなくなる(弾発指)などの症状が出ます。(もっとも、現在βミクログロブリンだけを吸着する透析膜の開発が進められており、一部実用化されているようです。)
・腎性骨異栄養症
上述のとおり、透析では腎臓の内分泌機能を代行することはできません。このため、腎不全の状態では、ビタミンDの活性化が十分に行われず、活性型ビタミンDの活性化障害による低カルシウム血症が起こります。さらに、腎臓からのリンの排泄低下などにより、骨からカルシウムを動員してカルシウム値を正常に保とうとする働きのある副甲状腺ホルモンの分泌が刺激されます。すると、骨からカルシウムが出て行ってしまうので、骨がもろくなったり、骨折しやすくなったり、骨や関節の痛みが出てきたりします。これら腎不全を原因とした骨の病気の総称を腎性骨異栄養症といいます。
3.透析の診療報酬
透析は、診療報酬上では特掲診療料のうち「一般処置」に分類されています。透析は、診療報酬においては「人工腎臓」と標記されていますが、ここには、血液透析のほか血液濾過及び血液透析濾過が含まれています(区分番号:J038)。なお、腹膜透析は「腹膜灌流」(区分番号:J042)という名称となっています。この他、通常の人工透析療法が困難な腎不全患者さんに対して長時間かけてゆっくりと体液調整を行う「持続緩徐式血液濾過療法」は、慢性維持透析とは別区分扱いとなっています(区分番号:J038-2)。
(1) J038 人工腎臓
[概要]
種類 |
透析を行った時間 |
点数 |
評価 |
---|---|---|---|
慢性維持透析 |
4時間未満 |
2075点 |
包括 |
4時間以上5時間未満 |
2235点 |
包括 |
|
5時間以上 |
2370点 |
包括 |
|
その他の場合 |
- |
1580点 |
出来高 |
[詳細]
・慢性維持透析
血液透析のうち、慢性維持透析を行った場合における診療報酬は、入院・外来の区別なく、透析を行った時間(*1)によって点数が異なり、4時間未満の場合は1日につき2075点、4~5時間未満の場合は1日につき2235点、5時間以上の場合は1日につき2370点となっています(「診療報酬の算定方法の一部を改正する件(告示)」(平成22年厚生労働省告示第69号) 第2章-第9部 処置 J038 (p.5)参照)。
慢性維持透析は、病状が安定している患者を対象としていることや、入院・外来いずれにおいても同等の医療が提供されているであろうことを踏まえ、包括評価とされています(平成22年度改正前は入院は出来高評価。)。したがって、上記所定点数には透析液などの費用が含まれることになるため(平成22年厚生労働省告示第69号) 第2章-第9部 処置 J038 注6参照)、例外的な場合(*2)を除いては、使用した薬剤等を薬剤料や特定保健医療材料料として別途算定することはできません(人工腎臓の所定点数に含まれるものの取扱いについては、「診療報酬の算定方法の一部改正の伴う実施上の留意事項について(通知)」(平成22年3月5日 保医発0305第1号)別添1(医科点数表)第9部 処置 J038 (17)) (p.246~247) 参照)。
*1(透析を行った時間)
透析を行った時間(人工腎臓の時間)には、透析実施前後の準備・整理に要する時間は含まれません。これは、人工腎臓の時間とは、「シャント等から動脈血等を透析器に導き入れたとき」から「血液が透析器から患者に全て戻ったとき」まで、とされているためです。
*2(例外的な場合)
透析(人工腎臓又は持続緩徐式血液濾過)を一ヶ月に15回以上実施した場合には、15回目以降は点数を算定することはできませんが、15回目以降の透析に要した薬剤料又は特定保健医療材料料については算定することができます。
(*1:平成22年3月5日 保医発0305第1号)別添1(医科点数表)第9部 処置 J038(4)参照)
(*2:平成22年3月5日 保医発0305第1号)別添1(医科点数表)第9部 処置 J038(6)参照)
・その他の場合
血液透析のうち、慢性維持透析以外の場合(=その他の場合)における診療報酬は1580点となっています。その他の場合というのは、急性腎不全患者に対して透析を行った場合や、透析導入期(一ヶ月)の患者に対して透析を行った場合などを指します。その他の場合においては、慢性維持透析の場合と異なり、透析液・血液凝固阻止剤・生理食塩水・注射薬の費用は所定点数に含まれないため、これらを薬材料又は特定保健医療材料料として算定することができます(いわゆる出来高制)。
血液濾過については、①血液透析では対処できない透析アミロイド症などの患者を対象とし、②血液透析を行った上で、③血液濾過を実施した場合に限って算定することができます。この場合、血液濾過は慢性維持透析ではありませんから、「その他の場合」によって算定することとなります。
血液透析濾過(HDF)については、血液透析によって対処できない透析アミロイド症などの患者を対象として実施した場合に限って算定することができます。この場合も、血液透析濾過は慢性維持透析ではありませんから、「その他の場合」によって算定することとなります。
・加算項目
人工腎臓においては、夜間人工腎臓加算、導入期加算、障害者等加算、透析液水質確保加算の4つの加算項目があります。
(a) 夜間人工腎臓加算
入院中以外の患者に対する人工腎臓のうち、以下のいずれかに当てはまる場合には、所定点数に300点が加算されます。(ただし、①又は②の場合には1回に限り加算可能)
午後5時以降に開始した場合
午後9時以降に終了した場合
休日に行った場合
(b) 導入期加算
人工腎臓導入期には、1ヶ月に限り1日につき300点が加算されます。ここでいう導入期というのは、継続して血液透析を行う必要があると判断された場合の血液透析の開始日から1ヶ月間のことをいいます。
(c) 障害者等加算
著しく人工腎臓が困難な障害者等に対して行った場合には、1日につき120点が加算されます。(「著しく人工腎臓が困難」の詳細については、平成22年3月5日 保医発0305第1号)別添1(医科点数表)第9部 処置 J038(16)を参照)
(d) 透析液水質確保加算
透析液水質確保加算は、以下①~③の施設基準を全て満たしている場合に10点が加算されます。これは、より厳しい水質基準を満たしている透析液を使用している医療機関を評価することにより合併症を予防しようというもので、平成22年度診療報酬改正で新設された加算項目です。
①日本透析医学会学術委員会による「透析液水質基準と血液浄化器性能評価基準」に基づき、水質管理が適切に実施されていること
②透析機器安全管理委員会を設置し、その責任者として専任の医師又は臨床工学技士を1名以上配置していること
①②が満たされていることを地方厚生局長等に届け出、これが受理されていること
・備考
◯ 人工腎臓の診療報酬は1日につき算定することとされていますので、治療が日付をまたいだ場合にどのように扱うべきなのかが問題となることがあります。この場合、以下のように対応することとなります。
→ 人工腎臓を午後6時以降に開始し、午前0時以降に終了したときには1日として算定します。ただし、午後6時以降に「その他の場合」に該当する人工腎臓を開始し、12時間以上継続して行われた場合には、2日として算定されることになります。
◯ 透析の診療報酬は1日につき算定することとされているので、同じ日に診療報酬上で異なる区分の透析を実施した場合にどのように扱うべきか問題となることがあります。この場合、人工腎臓と持続緩徐式血液濾過又は腹膜灌流を同一の日に実施した場合には、主たるものの所定点数のみで算定することとなります。
◯ 在宅自己腹膜灌流指導管理料を算定している患者に対して人工腎臓を行った場合には、週1回を限度として算定できます。たとえば、在宅自己腹膜灌流指導管理料を算定している患者に対して週2回の人工腎臓を行った場合には、1回の診療報酬しか算定できませんが、薬剤費は別途算定できることになります。
(2) J038-2 持続緩徐式血液濾過
[原則]
持続緩徐式血液濾過の診療報酬は、1日につき1990点であり、腎不全、重症急性膵炎、劇症肝炎、術後肝不全の患者に対して算定することができます。
[例外]
重症急性膵炎の患者に対して持続緩徐式血液濾過を行った場合には一連につき概ね8回、劇症肝炎又は術後肝不全の患者に対して持続緩徐式血液濾過を行った場合には一連につき月10回を限度として3月間に限って算定することができます。
なお、持続緩徐式血液濾過と人工腎臓又は腹膜灌流を同一の日に実施した場合には、主たるものの所定点数のみによって算定することとなります。
[加算項目]
持続緩徐式血液濾過においては、夜間持続緩徐式血液濾過加算、障害者等加算といった加算項目があります。
(a) 夜間持続緩徐式血液濾過加算
入院中以外の患者に対する持続緩徐式血液濾過のうち、以下のいずれかに当てはまる場合には、所定点数に300点が加算されます。
午後5時以降に開始した場合
午後9時以降に終了した場合
休日に行った場合
(b) 障害者等加算
著しく持続緩徐式血液濾過が困難な障害者等に対して行った場合には、1日につき120点が加算されます。
(3) J042 腹膜灌流
・連続携行式腹膜灌流
連続携行式腹膜灌流(=連続携行式腹膜透析(CAPD))の診療報酬は1日につき330点ですが、導入期に限り1日につき500点を加算できます。「導入期」というのは、継続して連続携行式腹膜灌流を実施する必要があると判断された患者が連続携行式腹膜灌流を開始した日を起算点とする14日間をいいます。したがって、単に以前行っていた連続携行式腹膜灌流を再開したに過ぎない場合は、導入期加算をすることはできません。
また、在宅自己腹膜灌流指導管理料を算定している患者に対して連続携行式腹膜灌流を行った場合には、週1回を限度として算定できます。たとえば、在宅自己腹膜灌流指導管理料を算定している患者に対して週2回の連続携行式腹膜灌流を行った場合には、1回の診療報酬しか算定できませんが、薬剤費は別途算定できることになります。
・その他の腹膜灌流
その他の腹膜灌流の診療報酬は1日につき1,100点です。その他の腹膜灌流には、APD(Automated Peritoneal Dialysis:自動腹膜透析)が含まれることになります。
(4) C102 在宅自己腹膜灌流指導管理料
自宅で腹膜透析を行っている患者に対して、在宅自己連続携行式腹膜灌流に関する指導を行った場合、3,800点を算定できます。この指導を同一の月に複数回行う必要がある場合(在宅自己腹膜灌流の導入期にある場合や、糖尿病で血糖コントロールが困難である場合など)には、2回目以降の指導管理料は1回について2,000点、これを月2回に限って算定することができます。
もっとも、同一の月に複数回の指導を行っても、その月内に人工腎臓又は連続携行式腹膜灌流を算定する場合には、2回目以降の指導に要した費用は算定することはできません。
透析に関連する資格
1.透析看護認定看護師
認定看護師制度は,高度化・専門分化が進む医療現場における看護ケアの広がりと看護の質の向上を目的として,日本看護協会が発足させた資格認定制度の一つです。
一般に,認定看護師の役割としては,「実践」「指導」「相談」の3つがあり,これを果たすことを期待されています。各役割の詳細は以下のとおりです。
実践 : 熟練した看護技術を用いた水準の高い看護の実践
指導 : 看護実践を通した看護者に対する指導
相談 : 看護者に対するコンサルテーション
実践・指導・相談の3つの役割を担うことが期待されている認定看護師ですが,透析看護分野においては,以下のような知識・技術が求められるとされています。
求められる知識・技術 – 透析看護分野
◯ 透析患者に対して,総合的な臨床判断に基づく個別的なケアや,患者教育を計画,実践,評価できる。
◯ 透析療法に関する専門的知識と技術を用いて,継続して安全で安楽な治療環境を提供できる。
◯ 末期腎不全患者が治療の選択を自己決定できるよう,倫理的な判断の基に援助ができる。
◯ 患者様とご家族の長期療養生活にかかわる他職種の人と連携し効果的な支援となるよう調整できる。
◯ 透析看護の最新情報に関心を持ち,また実践的モデルを示すことによって看護職者に対して指導や相談に応じることができる。
◯ 看護職者の継続教育に主体的に関わり臨床看護の質向上に積極的に取り組むことができる。
これら役割を果たし,かつ知識・技術を有することを求められるのが透析看護認定看護師ですが,認定を取得するためには,以下のようなプロセスを経る必要があります。
透析看護認定の取得プロセス
実務経験5年以上(うち3年以上は透析看護分野での経験+5例以上の症例経験)
↓ 願書提出
認定看護師教育機関入学のための試験
↓ 合格
認定看護師教育機関での教育課程
↓ 6ヶ月~
認定審査(筆記試験)
↓ 合格
認定看護師取得
↓ 5年
更新審査(5年ごと)
上記のとおり,認定を取得するには,教育機関での教育が必須となりますが,この教育機関へ出願をするためには,最低でも実務経験を5年以上経験していなければなりません。しかも,単に5年の実務経験があればよいというわけではなく,透析分野での経験に加え,5例以上の症例経験がなくてはなりません。具体的には,以下の出願基準を満たしていることが必要です。
出願基準-透析看護分野
(1) 高等学校もしくはこれに準ずる学校を卒業した者,または文部科学大臣の定めるところによりこれに準ずる学力があると認められた者。
(2) 日本国の看護師免許を有する者。
(3) 看護師としての実務経験を5年以上(入学時点で可)有する者。
(4) 認定教育を受けることについて看護管理者の推薦を受けた者(現在勤務していない者は,前勤務施設の看護管理者の推薦を受けること)
(5) 透析看護分野での通算3年以上の実務経験(=透析室で維持透析の患者の看護に直接携わった経験(ICU・病棟での透析や,腹膜透析のみの実務経験は要件を満たさない))を有する者。
(6) 透析導入期・長期維持透析・CAPD・ハイリスク患者の看護の中から5例以上担当した経験を有することが望ましい。
(7) 現在,透析看護に携わっていることが望ましい。
上記出願基準をクリアしている場合には,教育機関に願書を提出することが可能となりますが,2011年現在,願書提出先となる透析看護分野における教育機関は「東京女子医科大学」のみです。東京女子医科大学で公表している募集期間・試験内容・教育目的・カリキュラム等は以下のとおりです。
教育機関と募集概要(透析看護分野)
教育機関 : 東京女子医科大学 看護学部 認定看護師教育センター (東京都新宿区)
募集概要 : 定員 : 20名
教育期間 : 10月~3月
出願期間 : 【2011年度】 2011年4月29日~5月13日
試験日 : 【2011年度】 2011年6月8日
合格発表 : 【2011年度】 2011年6月14日
学科試験 : 専門科目Ⅰ (客観式問題)
専門科目Ⅱ (状況設定問題)
選抜方法 : 学科試験,小論文,面接の結果及び志望理由書,推薦書から総合判定
教育目的(透析看護分野)
・透析療法を受ける人と家族に対して,熟練した看護技術と知識とを用いて看護実践ができる看護職者の養成
・他の看護職者に対して指導・相談ができ,透析看護の質の向上に寄与するために必要な能力を養うこと
カリキュラム-透析看護分野(必修科目授業時間数:630時間/32単位)
【基礎共通科目】 |
【専門基礎科目】 |
【専門科目】 |
---|---|---|
リーダーシップ |
末期腎不全患者の看護概論 |
血液浄化療法に伴う技術 |
文献検索・文献講読 |
腎不全の病態生理と治療法 |
維持透析技術 |
情報処理 |
透析患者の身体機能 |
在宅透析技術 |
看護倫理 |
患者及び家族の理解のための理論 |
患者家族教育技術 |
教育・指導 |
リスクマネジメント |
透析生活支援技術 |
コンサルテーション |
|
コーディネート技術 |
対人関係 |
|
【学内演習】 |
看護管理 |
|
【臨地実習】 |
透析看護の教育課程への出願基準・認定取得のプロセス・募集概要は以下のとおりです。
出願基準となっている症例数の確保など,働きながら認定看護師を目指す場合には,職場の理解が必要不可欠です。
スキルアップのために認定看護師を目指したいのに「今の病院が忙しすぎて勉強できない」とあきらめる前に,思い切って転職してみるのもひとつの手かもしれません。
【参考】透析看護認定看護師の所属する病医院(一都三県のみ(2011年10月現在の日本看護協会ホームページによる))
都道府県 | 所属病医院 |
---|---|
東京都 | NTT東日本関東病院 |
愛和会南千住病院 | |
杏林大学医学部付属病院 | |
医療法人財団城南福祉医療協会 大森東クリニック | |
医療法人社団恵章会 御徒町腎クリニック | |
慶応義塾大学病院 | |
財団法人東京都保健医療公社 大久保病院 | |
社会福祉法人三井記念病院 | |
聖路加国際病院 | |
池上総合病院 | |
東京医科大学病院 | |
東京女子医科大学病院 | |
東邦大学医療センター大橋病院 | |
東邦大学医療センター大森病院 | |
独立行政法人国立病院機構 東京医療センター | |
日本医科大学付属病院 | |
日本大学医学部付属板橋病院 | |
埼玉県 | 医療法人慶寿会 さいたまつきの森クリニック |
財団健和会みさと健和クリニック | |
上福岡腎クリニック | |
神奈川県 | 医療法人沖縄徳州会 湘南鎌倉総合病院 |
医療法人財団石心会 川崎幸病院 | |
横須賀市立市民病院 | |
公立大学法人 横浜市立大学付属病院 | |
国家公務員共済組合連合会 横須賀共済病院 | |
国家公務員共済組合連合会 平塚共済病院 | |
独立行政法人労働者健康福祉機構 関東労災病院 | |
日本医科大学武蔵小杉病院 | |
千葉県 | 医療法人社団聖仁会 我孫子聖仁会病院 |
医療法人社団誠馨会 千葉中央メディカルセンター | |
医療法人社団中郷会 新柏クリニック | |
社団法人全国社会保険協会連合会 千葉社会保険病院 | |
日本赤十字社 成田赤十字病院 |
2.透析療法指導看護師・透析技術認定士
透析分野に明るい看護師は,透析看護認定看護師だけではありません。透析分野においては,「透析療法指導看護師」「透析技術認定士」という2つの資格も存在します。
透析看護認定看護師が日本看護協会の実施する認定制度であるのに対し,これら2つの資格は,学会の認定する資格です。
「透析療法指導看護師」は,日本腎不全看護学会・日本透析医学会・日本腎臓学会・日本移植学会・日本泌尿器科学会の5学会が認定する資格であり,「透析技術認定士」は,日本腎臓学会・日本泌尿器科学会・日本人工臓器学会・日本移植学会・日本透析医学会で構成される「透析療法合同専門委員会」が認定する資格となっています。
これら学会認定資格の目的や制度,受験資格等は以下のとおりとなっています。
なお,透析技術認定士については,准看護師でも取得可能な資格ですので,准看護師さんで専門性を身につけたい方にはおすすめの資格といえるかもしれません。
2-1.透析療法指導看護師
目的
透析看護現場におけるケアの質の向上を図ることを目的としています。
沿革
熟練した看護技術と知識を用いて水準の高い看護実践のできる透析療法指導看護師を育成するため,日本腎不全看護学会・日本透析医学会・日本腎臓学会の3学会が合同で平成15年度よりスタートした認定制度です。平成16年度より日本移植学会・日本泌尿器科学会も加わり,5学会が認定する資格となって今日に至ります。
制度
5年度ごとの更新制となっています。看護技術・知識の維持を目的として,更新には所定の単位が必要(70ポイント)となっています。したがって,単に実務をこなすだけでは単位は取得できず,5学会の学術集会・総会・セミナー・研修会への参加及び発表などにより単位を取得する必要があります。
取得要件:
◯ 正看護師であること
◯ 日本腎不全看護学会正会員歴が継続して3年以上であること
◯ 看護実務経験が通算5年以上あり,うち腎不全看護領域の実務経験が通算3年以上あること
◯ 透析看護領域(血液透析・腹膜透析)実践報告を3例提出すること
◯ 所定の学会の参加や学術誌論文掲載などにより加算される受験資格ポイントが累計30ポイント以上あること
試験スケジュール(第12回)
出願期間:2014年11月4日~12月5日
試験日 :2015年1月25日
受験料 :3万円
合格発表:2月中旬
認定期間:5年間
(合格率:第11回 90.0% / 第10回 85.9% / 第9回 99.2% / 第8回 84.4% / 第7回 81.9% / 第6回 100% / 第5回 88.7% / 第4回 88.9% / 第3回 93.6% / 第2回 94.6%)
・詳細→日本腎不全看護学会
2-2.透析技術認定士
目的
透析療法の正しい知識と技術を持ち,医師の指導監督の下に透析装置の操作と管理を行うコメディカルを認定することとしています。(認定期間:5年間)
認定主体
透析療法合同専門委員会(日本腎臓学会・日本泌尿器科学会・日本人工臓器学会・日本移植学会・日本透析医学会から選出された委員で構成)
受験資格
1.次のいずれかの資格を有し,かつ,免許登録日以降,申請書類提出日現在において,各資格に該当する透析療法の実務経験年数を満たしていることが必要です。なお,透析業務経験年数については,2カ所以上の施設における経験を合算することができます。ただし,透析業務経験期間として算入できるのは常勤期間のみであり,アルバイト期間を算入することはできません。
正看護師 : 透析療法経験2年以上
准看護師 : 透析療法経験3年以上(高卒の場合)
透析療法経験4年以上(中卒の場合)
2.透析療法合同専門委員会が実施する認定講習会を修了していることが必要です。なお,直近の前3回の講習会を1回以上受講した場合には,申し出により認定講習会の受講は免除されます。したがって,1回講習会を受講すれば,受講年度を含む4年間は受験資格を維持できるということになります。
[講習会について]
4日間にわたって開催されます。受講資格は,上述の受験資格1と同様です。また,講習会の全日程を受講しないと受験資格を取得することはできません。
受講料:32,000円
講習科目:下表のとおりです。
血液浄化療法の歴史 |
栄養管理 |
急性血液浄化 |
透析機器 |
臨床検査 |
小児腎不全患者の透析 |
装置 |
腎移植 |
腎不全患者の病態(心血管系合併症他) |
血液浄化療法の概要と実際 |
腎不全患者の手術 |
腎不全患者の病態(透析アミロイドーシス他) |
バスキュラーアクセス |
透析療法における倫理的問題 |
腎不全患者の病態(脂質代謝他) |
慢性透析療法 |
血液浄化療法の工学的基礎知識 |
薬物療法 |
腎不全患者の病態(腎性貧血他) |
血液浄化法の事故と対策 |
透析室の管理 |
腎不全患者の病態(腎性骨異栄養症他) |
腹膜透析 |
透析患者の看護 |
認定試験
・受験資格: 以下のいずれかの要件を満たしていることが必要です。
◯ 直近の認定講習会を受講していること。
◯ 過去3回の認定講習会のいずれかを受講済みであり,その旨を申し出ていること。
・試験日:5月中旬~下旬の日曜日
・参考:第35回透析技術認定士認定試験実施状況
受験者数 1,282名 / 合格者数 909名 / 合格率 70.90%
・詳細→公益財団法人医療機器センター
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